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Channel: 宮田マスターのGERSHWINレポート
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感謝を歌にかえて…宮田あやこ 東京で歌う

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2013年5月26日。東京は札幌に比べ多少湿気はあるものの、さわやかな風が吹きあやこと僕を迎えてくれた。東京へ足を運ぶのは33年ぶりだ。33年前、1980年といえばジョン・レノンの射殺事件があった年だ。その数日前僕は東京にいた。その年の7月にデビューしたあやこをサポートしてくださる女性に会うための上京だった。あやこをマネージメントするにあたり、夫にも会っておきたいといった用件だった。その直後あやこは発病し、東京生活にも行き詰まり、歌手としての活動を断念することとなる。デビューから半年、その前の長い助走期間はあったにせよ蝉の一生のような東京での活動だった。お世話になった方たちの尽力を砂にするがごとく札幌に戻ってきた。

ここ1~2年、あやこが東京で歌いたいと言い出していた。あやこの中の何かが彼女を突き動かし始めていた。その正体は東京ライブの企画を練るうち徐々に明らかになっていった。東京でやり残した重要なことがあったのだ。それは当時お世話になった方たちへ感謝の気持ちを伝えること。そのことをずっと果たさないできてしまっていたのだ。エピック・ソニー・レコードからデビューできたことはその後のあやこの歌手としての活動の大きな支えになっていた。多くの優秀なスタッフが真剣にあやこをサポートしてくれた。その事実は何物にも代えがたい自信につながっていた。

札幌で歌い続けてこられたもう一つの大きな力、それは聴きに来てくださるお客様の存在だ。とりわけ転勤で札幌にやって来られた皆さん。北の地に赴任し、皆さん地元に溶け込もうと必死だった。単身赴任の方たちが多かった。東京に戻られても札幌のあやこのことを皆さん気にかけてくださっていた。

あやこを聴きたければ札幌においでなさい。ずっとそう考えてきた。何事も中央からの発信が尊重される時代にあって、それに対する反発心があったのは事実だが、東京に対する意地のようなものも同時にあった。それはやはり自然なことではない。こちらから歌を届ける時だ。感謝の気持ちを伝えるのはまさに今この時だ。

5月27(月)午後1時。話題のスポット渋谷ヒカリエの並びにあるスタジオでピアノ大山泰輝さんとウッドベース加藤真一さんとリハーサル。今回のライブは予算面、事前のリハ時間が取れないなどの理由で、あやことの共演が数多くあり、腕利きの音楽家大山泰輝さん加藤真一さんでいこうと決めていた。このお二人90年代前半、加藤真一さんが3年ほど住んでいたニュー・ヨークに大山さんが訪ねて以来の旧知の仲だが、共演は初めてだという。

スーパー・プレイヤーの二人がいても、ステージ構成を考えるとギタリストがどうしてもいてほしかった。東京でお世話になった方々にコンサートのお知らせをしているうち、藤田洋介さんにギターをお願いできないかと考えるようになった。何年か前、藤田洋介と彼のミラクル・トーンズのライブDVDを見て健在のギタープレイを確認していた。東京ライブの一か月前に連絡を取ったら先約があったのだけどキャンセルして参加を快諾してくれた。

藤田洋介さん(当時は洋麻)は1970年代久保田麻琴&夕焼け楽団に在籍、その後は宮田あやこバンドのメンバーとして札幌道新ホールのデビューコンサート、新宿のルイードなどでのライブを支えてくれた方だ。その穏やかな人間性とあいまってあやこはいつも頼りにしていた。あやこのデビュー・アルバム「Lady-Mockin’ Bird」トップを飾る「Alaska」は彼と井上ケン一のツインギターで、イーグルスの「Hotel California」に比肩しうる名プレイと僕は真面目にそう今でも思っている。そのプレイを聴けるなんて、まさに夢の実現だ。

午後4時。会場のアート・カフェ・フレンズに到着。やってきた藤田洋介さんとがっちり握手。風貌は人生の年輪を感じさせるものだったが、まなざしと穏やかな笑顔はあの時の洋ちゃんそのままだ。世界進出を計ったサンディー&サンセッツを退団してあやこバンドのギタリストを務めてくれていたのだけど、歌手活動断念の事情説明をしないままあやこは札幌に戻ってきてしまった。そんなこと気にしないで、といつだって彼は言ってくれるだろうけれど、心残りの一つだった。3年前、彼が病に倒れた時、多くの人たちが立ち上がり、激励コンサートが開かれたそうだ。彼の人柄を物語るエピソードだ。

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会場のアート・カフェ・フレンズはJR山の手線恵比寿駅西口を出て歩いて1~2分ほどの街の喧騒からちょっと外れた場所にある。店の前のエントランスがたっぷりとられている瀟洒なビルの地下にあるライブ・スぺ―ス。天井が高く、スタインウェイ・ピアノが置かれ、絵画が数多く飾られた芸術的雰囲気にあふれたスペースだ。

開場は午後6時。見慣れたお顔が次々と現れ始めるが意外にお顔を存じ上げないお客様も多い。ネットであやこのCDを購入して初めてお会いする方たち、お客様が連れて来てくれた友人知人の方たちだ。初めての方たちはどこか緊張した表情をしている。あやこの歌を生で聴くのは初めてなのだからそれは当然の反応だろう。またあやこをよく知るお客様たちは皆さんリラックスしたいいお顔をしている。
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今回のライブ 宮田あやこ「コンサート2013 札幌/東京」と題されている。札幌・東京、構成はほぼ同じだ。オープニングはリチャード・ロジャースの「My Favorite Things」。「札幌からやってきた宮田あやこです。」そう語りかけ、東京コンサートは始まった。P5270697_800x600_2


1部のステージは、アルバム「Dream A Little Dream」の中から多く選曲された。1部のハイライトはバート・バカラック曲集。「This Girl’s In Love With You」「The Look Of Love」「The April Fool’s」「Alfie」が歌われ、大山/加藤インストロメンタルで「Close To You」が演奏された。「It’s All Right With Me」で1部が終了。

2部はビートルズ「Norwegian Wood」からスタート。続けてジョンの隠れたる名曲「This Boy」。ビートルズ・ヴァージョンはつい3声のコーラスに耳を奪われてしまうが、この曲をあやこが歌うとやるせなさの漂う楽曲のメロディーの素晴らしさが浮き彫りになる。原曲ではさほどわからなかったアメリカンポップからのジョンへの影響もよくわかる。

3曲目からお待ちかね藤田洋介さん登場。ストリングベンダー装着テレキャスターを抱え、観客へお愛想ひとつないが、彼ならそんな態度が全然気にならない、どころか渋くてかっこいい。曲はカントリーのパツィー・クラインの大ヒット曲「Crazy」。アルバム「Rock A Bye」の一曲だが、この数年ほとんどうたっていなかった曲なのだ。あやこは最近再びうたいはじめていた。洋ちゃんとの再会を予期するかのように。

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4曲目、5曲目は今回のコンサートのハイライト。日本語で歌われたあやこのデビュー・アルバム「Lady-Mockin’ Bird」から「Alaska」「蒼ざめた朝」の二曲。ここであやこは語りに長い時間を割いた。当時の思い出とエピックのスタッフの皆さんへの感謝の言葉なのだが、お名前こそ出さなかったけれど、当時の制作次長丸山茂雄さんを念頭に置いて、あやこは感謝の言葉を伝えた。あやこが東京で歌える事務的&生活的環境を整えてくださり、一人で東京生活を送るあやこを物心面で支えてくださった方だ。丸山さんがいなければあやこのデビューはなかっただろう。そんな恩人に報いることなく、むしろキャリアに傷つけるようにして札幌に戻ってきてしまったことは、人生を振り返った時あやこの大きな後悔としてあった。今回のコンサートにあたり、あやこは恐る恐る、勇気を出して丸山さんに電話連絡をしてみた。もう忘れられているかもしれない、そんな覚悟もしていた。しかし電話に直接出た丸山さんは、昔のままにあやこに温かく言葉をかけてくださり、コンサートへの参加も約束してくださった。

6曲目からはキャロル・キングのメドレー「Will You Love Me Tomorrow」をヴァースに、「It’s Too Late」「Way Over Yonder」と続く。バンドの演奏力ともあいまって、コンサートが最も盛り上がった瞬間だったように思う。

コンサートラストはケルトのトラディショナルソング「The Water Is Wide」。歌い終え洋ちゃんのおだやかなギターが鳴り響く中あやこは退場。

予定調和的にアンコールの拍手、と思いきや拍手が驚くほどに熱い。立ち上がって拍手をおくってくださる方も多い。会場のアート・カフェ・フレンズのオーナーの鈴木正勝さんは「本当の心からの敬意の拍手だった」忙しい中駆けつけてくれた音楽家の井上鑑さんは「あんなに熱いアート・カフェ・フレンズは初めて」と語ってくださった。東京でやって良かったと再確認できた瞬間だった。鳴りやまぬ拍手の中、あやこは涙を浮かべる。

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アンコールは、チャンスは誰にだってある。雨のあとには虹がかかる。きっと未来はあるはず。と語りピアノ大山泰輝さんと二人で「Desperado」。アンコール2曲目はリーバー&ストーラーの「Kansas City」。リビー・タイタスが女性用の歌詞で歌っているものに沿ってあやこも歌う。メンバーの素晴らしいソロが続き、あやこも熱唱。このブルース曲で、コンサートは大団円を迎える。P5270780_800x600


コンサート終了後、会場外のエントランスで皆さんを見送る。お一人お一人と言葉を交わし、抱擁し、一緒に写真に納まる。皆さん札幌にいたときよりも心なしか表情が穏やかだ。ともするとリゾート支社とも揶揄される札幌支店勤務だが、実際は皆さん戦っておられたのだ。アウェイの地で仕事中心の生活をされていた。ホームに戻られた皆さんそれはそれで大変だろうけれど、家族と一緒の生活は何より心の支えとなる。札幌から転勤で東京にいる方も多い。頑張ってほしい。お役に立てるならあやこはまた東京に行きます。

最後に会場から出てこられた丸山さんにあやこは直接言葉をかけることができた。丸山さんは「(自分への)気持ちはステージからしっかり伝わってきたよ」と答えてくださった。余命数か月と言われた癌をお父様の発明したワクチンでやっつけた生命力をお持ちの丸山さん。目には強い力が宿っていた。

実り多い東京だった。これが最後でもいいと考えていたのだけど。皆さんからの「次はいつ?」とのお言葉で再び歌う力がみなぎってきた。東京の様々なインパクトの余韻でまだ落ち着かない生活を送っている。温泉にでもつかり英気を養い次のステップを考えようと思っている。


宮田あやこ「コンサート2013 東京」セットリスト

Stage1

1.My Favorite Things
2.Dream A Little Dream of Me
3.Don’cha ‘Go ‘Way Mad
4.Little Girl Blue
5.I’ve Got You under My Skin
6.Burt Bacharach/Hal David Medley
 #This Girl’s In Love With You
 #The Look Of Love
 #Close To You(Instrument)
 #The April Fools
7.Alfie
8.It’s All Right With Me


Stage2

1.Norwegian Wood
2.This Boy
3.Crazy
4.Alaska
5.蒼ざめた朝
6.Will You Love Me Tomorrow
  ~It’s Too Late
7.Way Over Yonder
8.The Water Is Wide

ENCORE
1.Desperado
2.Kansas City

札幌公演は
#This Masquerade
#Fallin’ In Love Again
#Be My Baby
#California Sunset(Lady Mockin'Birdより)
#Close To You
が歌われた。
#Rain Drops Keep Fallin' On My Head(Instrumennt)


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